東京高等裁判所 平成2年(行ケ)84号 判決
第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)及び同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。
第二 そこで、原告主張の審決取消事由の当否について判断する。
一 成立に争いのない甲第六号証(特許出願公告公報)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び効果は次のようなものであることが認められる。
1 技術的課題(目的)
本願発明は、X線用カセツテのフイルム供給装置に係り、特に複数個のサプライマガジンより異なるフイルムを自動的に選択してカセツテに装填できるフイルム供給装置に関する(公報第一欄第二一行ないし第二四行)。
従来、異種サイズのシートフイルムを内蔵する複数個のサプライマガジンをフイルム供給装置に装着し、フイルム供給装置に装着したカセツテのサイズを検出して、それに適合したサイズのシートフイルムを前記複数個のサプライマガジンから選択搬出して前記カセツテ内に装着することはされている(例えば昭和五三年特許出願公開第一四五六一五号明細書)。しかし、X線フイルムは、撮影される人体の部位によつてサイズの異なるX線フイルムが使われるだけでなく、同サイズでも種類の異なるX線フイルムが使い分けられることがある。X線フイルムの種類が異なると、これに応じて増感紙も異なることになる。増感紙は一般的にカセツテ内に貼付けられているので、カセツテサイズが同一であつてもこれに装填するフイルムは異なつていることが必要である(第一欄第二五行ないし第二欄第一四行)。
本願発明の技術的課題(目的)は、種類の異なるカセツテ内に該カセツテに適合するX線フイルムを自動的に供給し、かつ、同一サイズのカセツテであつても、貼付けられている増感紙に対応したX線フイルムが装填できるようなフイルム供給装置を提供することである(第二欄第一八行ないし第二四行)。
2 構成
本願発明は、前記の技術的課題(目的)を達成するために、本願発明の要旨(特許請求の範囲)記載の構成を採用したものである(第二欄第二四行ないし第三欄第一五行)。
3 効果
本願発明によるときは、明室において本装置のカセツテを装着すると、カセツテの増感紙の種類に対応して、サプライマガジンからこれにマツチしたシートフイルムが供給されてカセツテ内に装填されるので、従来なかつた操作性に優れた効果が生じる(第七欄第二九行ないし第三四行)。
二 一方、第一引用例に審決認定(第三頁第八行ないし第四頁第一一行)の技術内容が記載されていることは、原告の認めるところである。
そして、成立に争いのない甲第七号証(特許出願公開公報)によれば、第一引用例記載の発明の技術的課題(目的)は、一台のフイルムサプライヤでマガジン内の複数サイズのフイルムを明室中においてフイルムサイズと一致したカセツテに自動挿填するフイルムサプライヤを提供するもの(第一頁右下欄第一八行ないし第二頁左上欄初行)であることが認められる。
そうだとすると、結局、本願発明と第一引用例記載の発明は、いずれも複数個のサプライマガジンよりカセツテに装填するシートフイルムを自動的に選択して装填するフイルム供給装置であつて、本願発明が、シートフイルムの属性のうち、その種類に着目して、カセツテに装填すべき種類のシートフイルムを自動的に選択してカセツテに装填するのに対し、第一引用例記載の発明が、シートフイルムの属性のうち、そのサイズに着目して、カセツテに装填すべきサイズのシートフイルムを自動的に選択してカセツテに装填するというもので、選択するシートフイルムの属性に差異が存するだけである。
審決が両者の相違点として四点を掲げているが、それらは、すべて右選択の対象の差異から当然に生じる相違点である。
三 相違点(2)に対する判断について
原告は、審決が、X線用シートフイルムを収容する容器には装填されているシートフイルムの種類がわかるように適宜の判別手段を設けることは普通に実施されており、また、カメラフイルムを例にとり、フイルム容器にどのような種類のフイルムが装填されているかを判別できる判別手段を設けるとともにフイルム装着部にフイルムの種類検出手段を設けることも良く知られていること(このこと自体、原告も争わない。)を理由に、第一引用例記載の発明のサプライマガジン及びこのサプライマガジン装着部において、サプライマガジンには収容しているシートフイルムの種類を示す判別手段を設け、またサプライマガジン装着部にはシートフイルムの種類検出手段を設けることは当業者が適宜になしえたものと判断したことの誤りをいう。
原告の主張は、X線用シートフイルムを収容する容器には装填されているシートフイルムの種類がわかるように適宜の判別手段を設けることが普通に実施されているといつても、これは、単に容器を開けなくても、その外側から見るだけで中に収納されているシートフイルムの種類がわかるような判別手段を設けるということにすぎず、本願発明のようにカセツテ内の増感紙の種類に適した種類のシートフイルムを自動的に選択してカセツテへ供給するために機械装置がシートフイルムの種類を検出できるような判別手段を設けるとの技術的思想に基づくものではなく、またカメラに収容されたフイルムの取扱とX線用シートフイルム供給装置に収容されたフイルムの取扱とでは技術分野を異にする旨主張する。
しかし、カメラとX線用シートフイルム供給装置とでは、容器に収容したフイルムに光を当てて露光してしまわないようにフイルムを取り扱う必要性があることにおいて共通しており、そのために収容したフイルムの内容(形態)を容器に表示すること及び該容器の表示部を検出できるようにすることというフイルムの取扱に関する技術的思想において共通の要素を持つものであるから、両者はその技術分野が近似し、技術的親近性を持つものということができる。
そして、成立に争いのない乙第一号証(昭和五〇年特許出願公開第一三七七三〇号公報)によれば、一般のカメラに用いられるフイルム容器において、該容器にフイルムの種類を判別する判別手段を設けるとともに、カメラの該容器の装着部に該判別手段を検出する検出手段を設けることは、本件出願当時周知の技術的事項であることが認められる。
右認定事実に、前述のとおり本願発明と第一引用例記載の発明とは、いずれも複数個のサプライマガジンよりカセツテに装填するシートフイルムを自動的に選択して装填するフイルムの供給装置であり、その選択をシートフイルムの種類に着目してするか、サイズに着目してするかの違いがあるにすぎず、判別手段そのものはそのいずれであるかによつて異なるものではないことを勘案すると、第一引用例記載の発明において、そのシートフイルムのサイズを検出する手段を種類を検出する手段に換え、サプライマガジン装着部にサプライマガジンに設けられるシートフイルムの種類を示す判別手段を検出するシートフイルムの種類検出手段を設けるという本願発明のような構成にすることは、当業者が何らの困難もなく適宜になし得たことといわざるをえない。
よつて、この点に関する審決の判断に誤りはない。
四 相違点(3)に対する判断について
次に、原告は、審決が、第二引用例にカセツテに設けられる増感紙の種類を示す判別手段を検知する増感紙検知手段をカセツテ装着部に設けることが記載されていると認定したことの誤りをいう。
成立に争いのない甲第八号証(実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)によれば、第二引用例記載の考案の登録願書に添付された明細書には、
「本考案はX線診断撮影装置の撮影台に適用するフイルムカセツテ検出装置に関する。
従来のフイルムカセツテは例えば大きさ、増感紙、内蔵されるフイルム等によつてカセツテの種類が異なるが、このカセツテの種類別を示すマークがない。仮にカセツテの種類別を示すマークがあつたとしても、それは色別マークのみであり、機構的手段によつてカセツテを自動的に検出するものはなかつた。」(第一頁第一四行ないし第二頁第二行)、
「本考案によれば、カセツテの所定位置にn個の被検出分スペースを設けてこの部分にカセツテの種類に応じて選択的に被検出手段を装着し、一方検出部側に(n+一)個の検出手段を設け、そのn個でカセツテの種類、他の一個でカセツテの有無を検出するようにしたので、種々のカセツテの装置にも拘らず、特に人為的な操作、判断を要せずして自動的にカセツテの種類を検出することができる。」(第五頁第四行ないし第一一行)と記載されていることが認められる。
これによれば、第二引用例記載の考案は、原告の主張するように、カセツテの大きさ、増感紙や内蔵されるフイルムの種類等の組合わせにより決定されるカセツテの種類の判別手段をカセツテに設け、カセツテ装着部にその検出手段を設けるもので、単にカセツテの増感紙の種類のみの判別手段や検出手段に係るものではない。しかし、カセツテの増感紙の種類が変われば、右の組合わせ、したがつてまたカセツテの種類も変わり、それに従いカセツテへの判別手段の表示も異なることとなり、カセツテ装着部に設けられる検出手段はそれを検出することになるのであるから、第二引用例記載の考案は増感紙の種類の判別及び検出の機能をも含むということができる。したがつて、審決が、第二引用例には、カセツテに設けられる増感紙の種類を示す判別手段を検知する増感紙検知手段をカセツテ装着部に設けることが記載されていると認定したことに誤りはない。
そうすると、第一引用例記載の発明において、その増感紙のサイズを示す判別手段を検出する検出手段を、その種類を示す判別手段を検出する検出手段に換えて、本願発明のような構成とすることは当業者において格別困難なく想到することができたものと認められ、相違点(3)に対する審決の判断には誤りはない。
五 相違点(4)に対する判断について
まず、原告は、審決が、カセツテにはその増感紙に適応した種類のシートフイルムを供給できるように配慮されていると判断したことの誤りをいう。
審決のいう趣旨は必ずしも判然としないが、審決が、第一引用例には、「サプライマガジンには、適宜の種類のシートフイルムが装填されており、またカセツテの増感紙に適した種類のシートフイルムが供給されるように配慮されていること」が記載されていると認定した(第五頁第一三行ないし第一七行)ことと同趣旨であると認められる。
これは、原告が主張するように、第一引用例記載の発明が、機械的にカセツテにその増感紙に適応した種類のシートフイルムが供給されるよう構成されているということをいうものではなく、第一引用例記載の発明は、カセツテに装填すべきシートフイルムのサイズを自動的に検出してカセツテに装填するものであるが、その場合でも、そのシートフイルムはカセツテの増感紙に適応する種類のものである必要があるから、それは取扱者において、あらかじめ、カセツテの増感紙に適応する種類のシートフイルムをサプライマガジンに装填しておくという操作がされること、すなわち、第一引用例記載の発明においても、カセツテの増感紙とシートフイルムの適応性の確保という技術的思想が存在することをいつたものにすぎないと認められる。そして、第一引用例記載の発明のもとにおいてカセツテの増感紙とシートフイルムの適応性の確保が必要であることは、増感紙とシートフイルムの性質からして当然のことであり、審決のこの判断に誤りはない。
次に、原告は、審決が、本願発明における増感紙検出手段及びシートフイルムを選択するための選出手段と第二引用例記載の考案における増感紙検出手段及び第一引用例記載の発明におけるシートフイルムを選択するための選出手段とになんら構成上の差異があるものではないと判断したことの誤りをいう。
しかし、本願発明は、カセツテにそれに装填されている増感紙の種類を示す判別手段を設け、それをカセツテ装着部に設けられるカセツテの種類検出手段が検出して、その出力情報により増感紙に適応する種類のシートフイルムを選択するものであるところ、前説示のとおり、第二引用例記載の考案の増感紙検出手段も、カセツテにそれに装填されている増感紙の種類をも含むカセツテの種類を示す判別手段を設け、それをカセツテ装着部に設けられるカセツテの種類検出手段が検出して情報として出力するものであり、また、第一引用例記載の発明はカセツテ装着部に設けられる検出手段からの出力情報によりカセツテに装填すべきシートフイルムを選出するものであるから、選択の対象こそ異なれ、本願発明における増感紙検出手段及びシートフイルムを選択するための手段と第二引用例記載の考案における増感紙検出手段及び第一引用例記載の発明におけるシートフイルムを選択するための手段とになんら構成上の差異があるものではなく、この点に関する審決の判断に誤りはない。
また、原告は、審決がカセツテの違い毎に応じて装填されるべきシートフイルムを選択して供給するために、用いるカセツテの違いを検出する検出手段からの出力情報を利用することが第一引用例記載の発明において示唆されていると認定したことの誤りをいう。
しかし、審決がいう「カセツテの違い」とは、「カセツテに設けられた判別手段の示す内容の違い」という趣旨で用いられていることは容易に理解することができるものである。したがつて、「カセツテのサイズ」も「カセツテの増感紙」も、それぞれそのサイズ、種類によつてカセツテに設けられる判別手段の内容を異にするものであるから、その違いを「カセツテの違い」として表すことができるものである。そして、第一引用例記載の発明は、カセツテに設けられたカセツテのサイズの判別手段(カセツテの大きさ自体がこれに相当する。)を検出する検出手段からの出力情報を利用してカセツテに装填すべきシートフイルムを選出するものであるから、第一引用例記載の発明に、カセツテの違い毎に応じて装填されるべきシートフイルムを選択して供給するために、用いるカセツテの違いを検出する検出手段からの出力情報を利用することが示唆されているということができる。
よつて、審決の右認定に誤りはない。
そして、審決が相違点(4)に対する判断においてその構成の容易性を判断する理由として摘示した事項を右のように理解するならば、シートフイルムの選出手段として増感紙検出手段からの出力情報に応じてカセツテ内の増感紙の種類に適したシートフイルムの選択を行うようにして本願発明と同一の構成にすることは、当業者において格別困難なく想到することができたものと認められ、相違点(4)に対する審決の判断には誤りはない。
六 以上のとおり、審決が相違点(2)ないし(4)に対して示した判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は存在しない。
七 よつて、本願発明は、第一引用例及び第二引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする審決の認定、判断に違法はない。
第三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は理由がないから、失当としてこれを棄却する。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
同一サイズのX線用のシートフイルムが複数枚装填され、かつ該シートフイルムの種類毎に設けられるサプライマガジンを装着できる複数の装着部と、前記シートフイルムをこれらサプライマガジンより取り出し、該シートフイルムを搬送するためのシートフイルム給送部、及びカセツテを装着するカセツテ装着部とを具備したX線用のシートフイルム供給装置において、前記サプライマガジンを装着する装着部に、前記サプライマガジンに設けられるシートフイルムの種類を示す判別手段を検出するシートフイルムの種類検出手段を設けるとともに、前記カセツテ装着部に前記カセツテに設けられる増感紙の種類を示す判別手段を検出する増感紙検出手段を設け、かつ前記増感紙検出手段からの出力情報に応じて前記カセツテ内の増感紙の種類に適したシートフイルムを選択するための選出手段を具備することを特徴とするX線用のシートフイルム供給装置